映画『るろうに剣心 最終章 The Final』の評価と感想レビュー

大岡大介
大岡大介
投稿日:2021/04/25 13:40
★★★
★★★

終わらせるための物語がもう一つ。

今回の剣戟アクションは、物量的に最高と言って良いかもしれない。斬っても斬ってもうじゃうじゃ湧いてくる敵の雑魚たちの描写はマンガとしか言いようがない。屋根に飛び上がり、その屋根を弾丸を避けながら中腰すり足で走り抜けて地面に飛び降り射手に斬りかかるという一連を割らずに見せる。どうやって撮っているのか想像がつかない。CGでしょワイヤーでしょなどというのは簡単だ。それをどうやって仕掛けてどうやって1カットにしているのか。思いついたアクションを物理化するレベルが半端ない。そしてそんなのが数え切れないほど出てくる。佐藤健を始めとする全ての役者たちの肉体の作業があって、初めて仕上がるアクションには「唯一」がある。

一方、物語として今作への感想は「Beginningを最後に持ってきて正解だわ」だ。今作は「スター・ウォーズ」で言えば「ep8」に当たるものかもしれない。剣心の物語は、剣心自身が戦いを終えれば終わるのでなく、剣を使う人間が絶えることで終わるのだ。そしてこの物語は、その「終わり」までのつなぎにすぎない。

各人各様の因縁と損得が絡み合って転がる前作までのダイナミズムはなく、単純に襲う敵・守る剣心、という図式。そうなると物語の緊張感はあまり強くない。ただ斬り伏せて勝つことは分かっていて、そこまでにどんなアクションを見せてくれるかだけがポイントになってしまっている(そのアクションがスゴいから良いのだけど)。

「敵」に少々問題がある。強い敵、気持ち悪い敵はたくさん出てくる。でも「怖い」敵は「縁」を含めていなかった。前作の「志々雄」が怖さでは最強だろう。前作に引き続き薫が囚われるが「抜刀斎につながった者全て」と言いながら薫への扱いがけっこう優しい。縁が薫に姉の面影を見ているなら、縁の内面で「他の誰でもない姉」への愛が唯一絶対化できていないことになる。つまり縁の狂気もまだ甘い、優しさが残っているわけだ。

生きるために斬らずに「倒す」。仮に倒した敵が数年立ってまた襲ってこようとも、それを自らの宿命と位置づけて葛藤を丸ごと背負う。そんな生き様は何度見せられても、困難すぎて簡単に観ている側の腹には落ちない。人生なんて未整理なものだ。それをフィクションとして描き背負い続けるのは大変で、観る側にも同じ重圧を課す。

剣心は、これからその世をどう生きていくんだろう。今作のラストカットにその問いが残る。そんな重圧や問いからはそろそろ解放してほしい、とさえ思えるのだ。

こうなるとやはり「Beginning」を観ないと終われない。いまから予測しているが、「Beginning」のラストは、剣心が人斬り抜刀斎になってから数十年後、ついに剣を帯びる侍が世から姿を消す場面ではないだろうかと夢想するのだ。剣は人を斬り、剣は人を活かす。しかしそのどちらをも時代が奪ってしまう。人が人をどう守れば良いのか(どうすれば守ったと言えるのか)が曖昧で難しい時代になる。それは現代にも続いていて、進む時代に取り残される世代が危機に瀕する。そんな中、お前の心に剣はあるかと問いかける鋭いラストを期待している。